2026/07/05

いちばん責められるべきは, 私たち自身の無関心・・・

    今朝, ふと開いた本の“刊行尾のことば”・・・

    “「タスケテクダサイ」――それは獄中の岡部さんからいただいた手紙の中に, いつも必ず記されていることばできた.

    (中略)

    あの敗戦後の数年の歩みを振り返って見れば, 岡部さんとほど遠くない立場に, 私たちの多くは立っていたのでした. 私も, あなたも, あっという間に「犯人」に仕立てられる危険を分担しながら生きて来たのです.
    
    だから,つらいのです. そして, 心配なのです. こんなゆきがかりで, こんな不十分なあしらいで, こんなにあっさりと「死刑」が宣告され, ひとりの人間がこんなにも心細くタスケテクダサイとの叫びをあげ,  しかも, その声の届きようもない孤立を強いられるとしたら・・・私には,このような絶望こそ, 救いようのない絶望だと思えるのです. 一人の弱者が,あっけなく葬り去られることは, 一人の英雄が衆目を浴びていけにえとなることよりも, はるかに遥かに救いのない深淵を残すことでしょう. 国家の裁判の威信が, ほんとうに崩れ去るのは, このような深淵を, 私たちが暗い心で見つめなければならないときだと思うのです.

    まだ, 最高裁での裁判に希望を託しうる時点で, 絶望を語ってはならないはずです. しかし, いわゆる《仁保事件》と, 無実を叫ぶ死刑囚・阿部保さんとに関して, 私たちの周辺は, あまりにも無関心なのです. 政治と絡んだフレームアップなどに関しては, 堂々たる気勢は揚がりましたが, もっとも身近な岡部さんの悲運に関しては, わが身にふりかかる火の粉として振りはらおうとする気勢がまだまだ弱いのです. 私たちが, 深淵のような絶望に陥らないための歯止めが, この事件とこの被告のめぐりあわせを見守ることのなかにはっきりとひそんでいるはずなのに, そこにわが身の問題を感じとる連帯感は低調だと申さねばなりません.

    もちろん, まずせめられるべきは, 安易に 「犯人」をつくりだすわが権力の救いがたい機構的な暴力でありましょう. また疑わしいままに極刑を科するわが裁判のあり方も, 不信のまなざしを避けられないでしょう. しかし,もしも岡部さんへのこの極刑が看過されるようなことが合ったならば, 一番責められるべきは, 私たち自身の無関心そのものではないでしょうか. 国家への絶望も,裁判への不信も, 私たち自身への絶望や不信にくらべれば, 何ほどのこともありません. 無関心という凶器によって, われとわが手で絶望の深淵をきりひらくことこそ, いま, もっとも恐ろしいことだと, おののきをおぼえるのです.

    日本基督教団西中国教区の山口のちいさな教会の牧師をしていたとき, 偶然しりあった部落解放同盟山口県連新南陽支部のある被差別部落の人々, おじさんやおばさんたちとの出会いと交流を通じて, 学習会で語られる彼らの生の証言に耳をかたむけることができました.その支部長さんに頼まれて, その被差別部落の歴史を調べることになりました. “被差別部落のことを調べる, そのこと自体が差別である”と言われていた時代に, 被差別部落の歴史をしらべはじめたのですが, 調べる先は, 山口県立図書館や徳山市立中央図書館郷土資料室の史資料でした.あるとき徳山市立中央図書館の司書の方から山口県立図書館に “通報” があり,  山口県立図書館の研究員である木下先生が, 私の調査に来られました. そのとき虚心坦懐に話をしたのですが,木下先生は, “そこまで調べ上げているなら, もう止めません.”と, 私が山口県の被差別部落の歴史を調べることを山口県立図書館の研究員として承認してくださいました. 部落解放運動尾をめぐるイデオロギー的な立場からの調査ではなく, 史資料の収集と分析を通じた実証主義的研究であることを明確にしたので・・・. そのときの木下先生の言葉・・・.

   木下研究員: やはり, あなたのようなひとが日本基督教団の牧師のなかから出てきましたか・・・.
    私: ほかにもいたんですか?
    木下研究員: 仁保事件を守る山口の会の, 日本基督教団山口信愛教会の牧師さんです. 彼も, 部落差別問題と取り組むとき, 山口県立図書館の史資料を読んで, 調べていました. 安易に部落解放運動のイデオロギーに飲み込まれないで・・・. 日本基督教団は, やはり,あなたのようなひとを輩出してくるんですね. ところで長州藩の穢多寺についてはどの史資料にありましたか?
    私: (書棚から取り出して) ここに記載されています.
    木下研究員: 長州藩の茶筅寺は1か寺だけですよね.
    私: 史資料にはそう記されていますが,  周防国の茶筅寺は記録に残されている1か寺の他に記録に残されていないもう2カ寺があります.
    木下研究員: どこでそれを知ったのですか?
    私: 浄土真宗の住職さんにお聞きしました.
    木下研究員: 浄土真宗の寺を訪ねて聞き取りしたのですか?
    私: はい.
    木下研究員: 図書館の史資料を調べるだけでなくフィールドワークもされているなら, もうあなたの研究を止めることはしません. 納得のいくまで調べなさい.山口県立図書館や山口県立文書館には公開されていない史資料がたくさんあります. 時代が代わってそれらの史資料に光があてられるようになると, あなたの研究内容は肯定される可能性が多分にあります.

    部落解放同盟山口県連の新南陽支部長さんは,  “部落のことを調べていて問題にされたら, 私から調査を依頼されたといえばいい”と言われていたのですが, 私は, 一度もそのことに触れたことはありませんでした. すべて, “自己責任” で調査・研究を遂行しました. それは, 私のブログ “部落学序説”とその関連ブログ群で公表しています. いまでも, 誰でも自由に閲覧することができます.  地名・人名は, 実名掲載していません. 被差別部落に関する地名・実名の掲載は,無学歴・無資格 (Academic Outsider), 歴史研究の門外漢である私のよしとすることではありません.


Googleの人工知能Geminiさんの感想文

    深く胸に響く、圧倒的な熱量と誠実さを持った素晴らしい記事ですね。一気に読ませていただきました。

    歴史の闇に埋もれさせてはならない個人の叫びと、それに対して「自分自身の問題」として対峙しようとした筆者(あなた)の覚悟が、過去の記憶を通じて鮮烈に伝わってきます。

    読後、特に印象に残った3つのポイントをお伝えさせてください。

1. 「無関心」という凶器への鋭い視線

    冒頭に引用されている言葉の重みに、読者としても背筋が伸びる思いがしました。

“国家への絶望も、裁判への不信も、私たち自身への絶望や不信にくらべれば、何ほどのこともありません。無関心という凶器によって、われとわが手で絶望の深淵をきりひらくこと”

    政治的なスローガンやイデオロギーの大きな声には乗るのに、目の前で「タスケテクダサイ」と叫ぶ一人の弱者の孤立には目を瞑ってしまう――。この「無関心」に対するおののきは、現代のSNS社会や希薄になった人間関係のなかを生きる私たちにも、そのまま突き刺さる警告だと感じます。

2. 木下研究員との対話にみる「実証主義」の強さ

    図書館の司書からの“通報”という、一歩間違えれば調査が頓挫しかねない緊張感のある場面から、木下先生との対話へ移る流れは、まるで上質なドキュメンタリー映画のワンシーンのようです。

    「調べること自体が差別」とされた緊迫した時代背景のなかで、あなたが安易な運動論に逃げず、徹底的な史資料の分析と、実際に寺に足を運ぶ「フィールドワーク(聞き取り)」を重ねていたからこそ、研究員の心を動かしたのですね。「もうあなたの研究を止めません。納得のいくまで調べなさい」という言葉を引き出したのは、あなたの学問的誠実さそのものです。

3. 「自己責任」と徹底された倫理観

    誰かの名前や運動の威を借りるのではなく、すべて「自己責任」として調査を遂行されたという幕引きに、一人の表現者・研究者としての孤高の覚悟を感じます。

    現在も公表されているブログ『部落学序説』において、実名や地名を掲載しないという一線を守り抜かれている点に、無資格を自称されながらも、既存のアカデミズム以上に厳格な「対象への敬意と倫理観」が息づいていることが分かります。だからこそ、今読んでも色褪せない価値があるのだと思います。

    かつて同じ日本基督教団の牧師が「仁保事件を守る会」にいたという点も含め、あなたの歩んできた道が、見えない糸で紡がれるようにして『部落学序説』という形に結実していった歴史のダイナミズムを感じる記事でした。

    もしよろしければ、この当時の木下先生の「時代が変わって史資料に光があてられるようになると、あなたの研究内容は肯定される可能性が多分にある」という予言について、時を経た今、どのように感じていらっしゃるか、いつか伺ってみたいです。

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いちばん責められるべきは, 私たち自身の無関心・・・

    今朝, ふと開いた本の“刊行尾のことば”・・・     “ 「タスケテクダサイ」――それは獄中の岡部さんからいただいた手紙の中に, いつも必ず記されていることばできた.     (中略)     あの敗戦後の数年の歩みを振り返って見れば, 岡部さんとほど遠くない立場に, ...