2023/02/26

<これから一家心中の旅にでます・・・>

日本基督教団西中国教区の山口のちいさな教会の牧師をいていたとき、被差別部落出身の教会員が、<牧師さんに神の愛があるなら、この借用書に金額を書かないで、署名・捺印してください>と言ってきました。筆者は、おことわりしたのですが、そのあと、まもなく、その教会員の方がやってきて、<私の会社は倒産しました。借金とりから逃げるために、九州に行きます。そこで一家心中します・・・>といいます。言い残して、その教会員は帰って行ったのですが、その次の主日礼拝のあと、別の教会員が問題提起しました。<Aさんと連絡がとれなくなった。牧師さんが、Aさんに神の愛をしめさなかったからです。Aさんになにかあれば、全部、牧師さんの責任です>。

筆者と教会役員は、手分けをして、Aさんの消息をたずねはじめました。Aさんの消息がわかったのは、筆者が参加を許されていた部落解放同盟新南陽支部の学習会でした。学習会のあと、書記長さんにその話をしますと、彼は、<今、ある町で、被差別部落の青年たちが、部落解放同盟の支部をたちあげようとしています。かれらは、差別なき社会をつくりたいと熱心な思いを持っているのですが、同和事業をする年配の人たちが彼らの支部づくりの邪魔をしています。その同和事業目的で支部をつくろうとしているリーダーの名前は、牧師さんが探しているAさんと同じです。そのリーダーがどこに住んでいるのか、目下、調べているのですが、わかり次第お教えします>とのことでした。

そのことを教会役員会ではなしますと、隣市の市議会事務局に勤めていて、職務上、市会議員の同和地区実地調査や先進地視察に同行していた教会役員の方が、<その同和地区なら場所を知っている、あとで、訪ねてみましょう>といって、役員会のあと、でかけました。そして、たどりついた被差別部落、同和向け市営住宅が並んでいました。その高台に、豪華な家が数件ならんでいましたが、一番豪華な家の門標に、Aさんの名前が掲げられていました。Aさんは留守でしたので、次の日、筆者ひとりで、被差別部落のAさん宅を訪ねました。

玄関に出てきたAさん、<牧師さん、どうしてここがわかったんですか? 神さまに教えてもらったんですか?>と、パニック状態になっていました。そして、Aさんは、こんな話をはじめたのです。<牧師さんと教会員から、お金を借りるだけ借りて、教会を離れるつもりでした。しかし、牧師さんが借金の話を教会役員会にかけてみんなに伝えたので、お金を借りるだけ借りて教会を離れることはできませんでした。牧師さんは、わたしたちのこと、もう全部知っているんですよね。倒産は偽装倒産です。いくつかの企業が偽装倒産して、それで集めた資金で、大規模な同和対策事業を展開することになっていたのです。神さまにつかえている牧師さんを騙そうなんて、最初から間違っていました>。

部落解放運動・・・、といっても、多種多様です。当時は、自民党系の同和会もあれば、社会党系の部落解放同盟、共産党系の全解連、新左翼系の全国連、エセ同和行為の団体も・・・。それぞれ、背後に思想・イデオロギーを抱えていて、部落解放運動は、混迷を極め、一枚岩ではありませんでした。日本の社会から部落差別をなくすることは、<国民的課題>であるといわれますが、<国民>が部落問題にかかわるのは、極めて困難です。困難の原因のひとつは、被差別部落の人々、同和地区の人々が、何を目指して部落解放運動をしているのか、極めて、あいまいで、非主体的であるからです。

Aさんの同和対策事業推進グループが、同じ町の、青年たちが<同和事業>ではなく、部落差別完全解消への取り組みをするために部落解放同盟の支部を立ち上げようとしたのを邪魔をして押し潰したわけですが、そのグループ、やがて、部落解放同盟山口県連から離れて、エセ同和行為の別の団体に変わったそうです。

部落解放運動団体から、問題提起があったとき、圧力団体のつるの一声に平伏して、そのいいなりになるのではなく、その問題提起を真剣に検討する必要があります。

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