昨夜、ヤスパースの『哲学』(全3巻)を精読しているときに出てきた、ある<人間像>・・・。
人間は、子供から大人になり、労働する。
だがそれも笞とパンによって駆り立てられてである。
そして、自由に放任されると、怠惰で享楽的である。
そうした人間の現存在は、食うこと、交合すること、眠ることであり、これらのものが不十分な程度にしかできないときには、その現存在はみじめなものとなる。
かれは、機械的な、習い覚えられる労働以外のことをする能がない。
かれは習慣に支配され、さらには彼の仲間の間で共通の意見と認められるものに支配される。
かつまた、彼を支配するものは、かれの不足した自己意識の埋め合わせを求める権勢欲である。
かれの意志と行動の偶然性において、運命に対する彼の無能力が顕わになる。
過去のものは、迅速に、どうでもいいものとして、かれから逃げ去る。
かれの予想は、最も手近なものと極めておおざっぱなものにしか及ばない。
かれは自分の生活を深く知らず、心得ているのは在り来たりの日常事だけである。
かれの魂をすみずみまで霊気あるようにする信仰は何もなく、かれにとっては、盲目的な現存在欲と幸福を求める空虚な衝動との間には、何ひとつとして無条件的なものはない。
彼が機械労働をしているにせよ、あるいは科学的作業に協働しているにせよ、またかれが命令するにせよ、あるいは服従するにせよ、またかれがどこまで食いつないでゆけるか分からずに不安がっているにせよ、あるいはかれの生活が安定しているように見えるにせよ、とにかく依然としてかれの本質は同じである。
もろもろの状況は偶然的な傾向によってあちこちとゆすぶられて、絶えずかれは自分と同様な者たちの近くにいようとする衝動にかられているにすぎない。
共同体の内に基礎をおいた持続性ももたず、人間同士の間の信義も欠いて、かれは実態的な存在に重心をおく生活の進路がないその日暮らし的な人間としてとどまる。
このような人間像が、どの程度まで真実であるかは、経験によって検定されはしない。こうした外観を呈する世間一般の生活の現実が大量に現れるということは、争う余地がない。しかし、たとえ観察や悟性が繰り返しそれを正当化するように見えるにしても、こうした人間に賛成することに、われわれの内なるすべてのものが反対するという理由は、一体何であるか。・・・私は、私が有する平均的人間像に対し、必然的に、人間的偉大さの形態として非凡なものを対立せざるを得ない。そしてこの形態は、私が自らを堕落させるようなおそれのあるときは、私をば自分の道を踏み外さないように導くものである。私は・・・過去から語りかけてくる人間の偉大さによって規定される。
2022/03/25
ある人間像・・・
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