夜、『新比較外交政策論』の<第11章 ロシア連邦の外交政策>に目を通しました。1992年5月の出版ですから、今から30年前の本・・・。1991年末、ソ連が崩壊してから約半年後に書かれた<ロシア連邦の外交政策>ですから、そこには、ソ連崩壊後のロシア連邦のそれ以降の動向に対して、自由主義陣営からの淡い期待を背景にして、論じられているようです。
インターネットで、著者の<河原地英武>で検索してみました。下記文章は、ロシアによるウクライナ侵略戦争がはじまる前の2月8日の記事の一部です。
<単刀直入にききますが、戦争は起こるのでしょうか?
本当のところ、だれも戦争は望んでいません。まずウクライナですが、2014年の内戦で約14000人の死者を出しましたが、次に戦争になれば、犠牲者はその数倍、いや数十倍になるでしょう。国家は破綻します。欧米諸国も、この紛争に介入して自国兵士が死傷すれば国内世論が許さないでしょう。大量のウクライナ難民が押し寄せることと思いますが、その面倒をみる余裕もありません。特に欧州は、ロシアから輸入している天然資源も途絶えてしまいます。ロシアにとっても大変なことになります。かりに軍事侵攻が成功しウクライナ(の一部)を占領しても、ロシアにはウクライナ人の面倒を見る経済的余力はありません。また、親欧米派と親ロシア派の対立を今度はロシアが国内に抱え込むことになり、ロシア自体が紛争地帯と化してしまいます。強化される欧米諸国の制裁により、ロシア経済も限界まで追詰められてしまうかもしれません。
それでも戦争が起こるとすれば、どのようなシナリオが考えられますか?
武装したウクライナ国内の親欧米派、親ロシア派のどちらかが攻撃をしかけた場合、ロシア軍は親ロシア派の救援要請を受け、国境を越えることになるでしょう。そして親ロシア派の支配地域を一気に占拠することになるだろうと予測します。そうなれば、ウクライナ軍もNATOの援護を受けつつ徹底抗戦という事態に陥り、泥沼の戦争になるかもしれませんが、結局ウクライナは、親欧米派の支配地域と親ロシア派の支配地域に二分割され、前者は直ちにNATOに加盟し、後者はクリミアと同様、ロシアに併合されることになるかもしれません。
このようなシナリオを食い止めるために今一番望まれるのは、戦争の挑発に乗らないウクライナ国民の自制力と、親欧米派と親ロシア派の対立をエスカレートさせないような政策、とりわけゼレンスキー大統領の指導力ではないかと思います。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもある。俳句誌「伊吹嶺」主宰。>
ロシアによるウクライナ侵略が開始されたあとでは・・・
<ロシアのプーチン大統領は2月24日、ウクライナへの「特殊軍事作戦」を行うと国民に演説し、実質上、ウクライナ全土への軍事侵攻に踏み切りました。一体大統領は何を考えているのでしょう?そしてウクライナをどうするつもりなのでしょうか?
正直なところ、まさか彼がこのような行動を起こすとは予測していませんでした。わたしの予測を越えるプーチン氏の思惑を探ることは非常に困難ですが、その言動を分析しながら、論点をできるだけ冷静に整理してみたいと思います。
歴史的にロシアには2つの思潮があります。西欧派とスラブ派です。西欧派は、西欧流の近代化をめざす立場。これに対しスラブ派は、ロシア正教を精神的支柱とし、スラブ民族古来の価値観を優先します。そして、個人主義や資本主義によって腐敗堕落した西欧の模倣を根絶すべしと考えます(詳しくは『公共論の再構築』(2020年、藤原書店)所載の「第4章 ロシアにおける公共と経済(河原地英武)」参照)>。
(ウクライナの大統領ゼレンスキーに対しては・・・)
<ロシアによる軍事侵攻は、弁護の余地がない絶対悪であることを大前提として言いたいのですが、この悪によって祖国を失えば子々孫々に不幸は及ぶ、だから今の世代が犠牲になってでも子孫の未来を守ろうという決意は正当なのか……。今の世代の命がこの戦いで失われていいのか。1週間でウクライナの民間人が2000人以上死亡しました(3月2日現在)。これから万単位に膨れ上がるのでしょう。政治家は国民の命を守るのが仕事のはず。よし大義があるにせよ、国民に命を差し出すことを求めるゼレンスキー大統領は、戦士としては英雄ですが、政治家としては失格だったのではないか。かりにウクライナが持ちこたえても、ゼレンスキー氏は政治家に戻れないのではなかろうか。ウクライナは国防優先の国家に変貌し、大統領は「戦士」としての相貌を残したまま統治してゆくことになるだろうと思います>。
専門分野が、ロシア政治・安全保障問題・国際関係論である河原地英武氏・・・、ロシア側にたってのウクライナ批判・・・! ウクライナを侵略したロシアの大統領・プーチンを不問に付して、侵略戦争をしかけられたウクライナの大統領・ゼレンスキーを批判している・・・! 帝政ロシア、ソ連、ロシアの外交と軍事の歴史を無視したウクライナの防衛戦争批判・・・、これが、大学の教師・学者の語ることとは・・・! 筆者が大学の学長であるとしたら、即刻解雇処分にするでしょう。
『新比較外交政策論』は、読むのをやめました。
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