2022/12/01

プロの診断だから間違いない・・・

<プロの診断だから間違いない・・・>

日本基督教団神奈川教区と西中国教区で牧師をしている間、何度か耳にした言葉です。神奈川教区の開拓伝道に従事していたとき、筆者の妻は、出産予定日より40日早く娘を出産しました。そのとき、東京大学出身の研究者の奥さんで、東京女子薬科大学を出られた信徒の方が、<40日早産したこどもは、どこかに障害を持っている。自分の娘に障碍者を持っている牧師は、この教会の牧師に相応しくない>と、慶応大学教授夫人の信徒の方と一緒に、<この教会は、無学歴無資格の牧師ではなく、キリスト教の名門で、高学歴・高資格を持っている、阿佐ヶ谷東教会の高倉徹牧師が相応しい。吉田牧師は、高倉牧師にこの教会を譲って、さっさと出ていくべきだ>と、他の教会員に<オルグ活動>をされていました。そのうち、筆者も右手関節炎を患い筆記不能に陥りましたが、それは、かれらの牧師排斥運動のさらなる呼び水になったようです。<この教会には、自身障害者で、障害者の娘を持っている牧師はふさわしくない・・・>との声が強化されました。

西中国教区の山口のちいさな教会の牧師になってからも、その<プロの診断だから間違いない・・・>とのうわさが広まり、外見上なにの障害もない娘は、西中国教区の教会のプロたちによって、<自閉児>との烙印を押され、筆者と娘も、障害を持った、神に見捨てられた存在としてみなされるようになりました。あるとき、そのことを心配してくださった西中国教区の山口教会の信徒で、精神科の医師をされている、教区の常置委員の方が、教会を訪ねて来られ、娘を診察して帰られました。その結果は、<あの子は、わたしが質問をすると、答える前に考えてから答える。頭のいい子だ。自閉児ではない。>と診断してくださったのですが、西中国教区の牧師・信徒は、<吉田牧師の娘は健常児という名の障害者だ>と主張するようになりました。娘の大学進学のとき、西中国教区の牧師・信徒議員の方々は、<障害者である吉田牧師の娘が国立大学などに入れるはずがない>と主張されていましたが、山口教会の精神科の医師の方だけは、<私は、吉田先生の娘は必ず国立大学に入ると言ってたでしょう。その通りになりました>とみんなの前で話しておられました。

それからしばらくして、神奈川教区の開拓伝道所でずっと教会役員をされていた方から電話がありました。<Aさんが、吉田先生の娘さんがどうなったのか、大学に進学できたのかどうか、とても心配しておられるので、一度電話してください>と・・・。あまりに熱心に求められるので、筆者、電話し、娘が地方国立大学に合格したことを伝えました。すると、<あははっ! やはり、慶応大学にははいれませんでしたか! 慶応大学は、未熟児で生まれた吉田牧師の娘さんが入れる大学ではなかったのですね!あははっ!>と笑っていました。筆者、<西中国教区で清貧生活を余儀なくされましたので、娘を私立大学にやるという発想は最初からなく、国立大学専願で受験させました。>と答えたのですが、筆者の語る言葉は、もうそのひとの耳には届かなかったようです。

<プロの診断だから間違いない・・・> プロが、診断を間違うと、どのような悲惨な結果を家族にもたらすことになるのか・・・。大学の教授だから、小中高の教師だから、<判断に間違いはない>という<独断>と<妄想>は、それが不真実なものであるかぎり、やがては、プロのプロたるゆえんを自ら否定することにつながりかねません。

娘が、国立福島大学行政社会学部に合格・進学、山口の地を離れるとき、娘は、筆者に、<おとうさん、最後に教えて。もし、わたしが、教会のひとたちがいうように、障害児であったら、自閉児であったら、わたしをどのように教育したの?>と問いかけてきました。筆者、<仮定の話として、・・・・>、娘に、筆者の人間観・教育観を話しますと、娘は、<おとうさんとおかあさんの娘として生まれてきてよかった・・・>といって、旅立って行きました。今は、娘は、福島大学の大学院をでたあと、他の国立大学の大学院を出られた方と結婚して、子供も与えられ、家族3人で、筆者と妻と同じ福島県郡山市に住んでいます。娘は、日本基督教団の教会で洗礼を受ける決心がつかず、カトリック教会で洗礼を受けました。

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