私の日本の原風景は, 岡山県児島郡琴浦町下ノ町萱刈の海辺の風景・・・
その原風景は, もう存在しません. 日本の製塩業の歴史と共にこの地上からその姿を消してしまったからです. 私が生まれた家の庭の端には船着き場がある海辺の家でした. 庭の端は入江に面しており、対岸には塩田が広がっていました.
ものごころついたころから見ていたのは入浜式塩田とそこで作業している塩百姓の人たちの姿・・・. かなり離れたところにかかっている橋を渡ってよく, 塩田に遊びに行きました. 水路には, 海のちいさな魚、はぜなどがいて網ですくうことができたからです. 引き潮のとき塩田の石垣から砂浜にいるイシガレイをよく釣っていました. 砂に隠れて目だけを出しているイシガレイの鼻先に餌をもっていくとすぐ食いつきました. 干潮時のわずかな間に20~30匹のイシガレイを釣り上げることができました.
どようの日には, 町内会で, 消石灰を水に解いてバケツで塩田の石垣の間に流し込みます. すると呼吸困難になったウナギがニョロニョロ, 石垣の間から出てきます. それを町内の子どもたちが捕まえてバケツに入れるのです. みんな大騒ぎ・・・. とったウナギは一か所に集めて, 町内の戸数に均等に分けて持ち帰ります. バケツに半分くらいのウナギをもらうと, 1週間ほどウナギどんぶりの食事が続きます. ウナギどんぶりは, 1~2回は美味しいですが, 3~4回目には飽きて食べたくなくなります. それが1週間続くのですから, その日々は, ウナギ地獄・・・. ウナギ地獄の経験を味わった私は, ウナギ料理は好きではありません. "もう十分食べたから, うなぎはいい・・・" といって口にすることはありません.
塩田の土手道には, 月見草の花や昼顔の花が咲き乱れていました. 草むらの中にねっころがって空を見上げていると, 不思議な錯覚を覚えました. 急にからだが軽くなり, 空中に浮かび, 青空の中をただよう雲のようになったからです. しかし, 恐くなると, ドスンと音がして元の草むらに横たわっていて何度安心したことか・・・.
そんな塩田は, 入浜式塩田から流下式塩田に代わり, 製塩も真空式に代わって行きました. ボイラーで石油を焚いて塩を蒸留していた日本の塩田は, オイルショックで石油が高騰, 採算がとれなくなり赤字がかさみ多くの塩田が廃業に追い込まれ, その塩田は再開発され宅地や道路、工場地帯に変って行ってしまいました.
私の日本の原風景は, わたしが生まれ故郷・岡山県児島郡琴浦町 (現倉敷市) が棲息している間に, ふるさとはふるさとで亡くなり, わたしのふるさとは, こころのなかだけに存在するふるさとになりました. 私の日本の原風景は, もはや、私のこころの中にしか存在しないのです.
入浜式塩田の海水を温める仕組みを, 標高550mの湖南高原の, 妻の実家の棚田の田で夏でも15°Cの常夏川の水を温めるために作った温水田に適用・・・. ここらのもんである, 妻の実家のおとうおさんと、よそもんである私の知識・技術を融合したものが, 現在の, 妻の実家の棚田での米作りです.
私の生まれ故郷, 岡山県児島郡琴浦町は, 昔から干害の場所です. そのため, いたるところにため池が作られています. 干害対策用のため池は, "温水田" にはなりません. 小学生の頃、よく, "ため池で泳いではいけない" と指導を受けました. ため池の水は, 水面から20~30cmのところまであたたかいのですが, それ以下は急に水温が低くなり, それが足にひきつけを引き起こしたり心臓発作の原因になったりします.
妻のふるさと・湖南でも, "温水田" をつくってコシヒカリを栽培しようとした人は少なくないようですが, よく話を聞いてみますと, それは, "温水田" ではなく, 単なる "ため池"・・・. "温水田" は水を温める機能を持っていますが, "ため池" にはその機能はありません. 塩田とため池の機能の違いを身に染みて知っている私は, "温水田" の管理に失敗することはありません. しかし, "素人百姓のおめえがしていることは, ここらのプロ農家はすぐまねることができる" と豪語する, 見よう見まねでコシヒカリを栽培しようとする農家はまだコシヒカリの栽培に成功していないようです.
昨日, 妻のくるまYARISの車検の担当者の方には, 福島県の標高550m付近の棚田の田での, "温水田" と "ため池" の見分け方をお教えしました. "温水田" をつくると, コシヒカリの栽培が可能になりますが, 見かけは同じでも, "ため池" をつくっては, コシヒカリの栽培は不可能です.
2024/04/13
私の日本の原風景・・・
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